大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)357号 判決 1965年8月31日
控訴人 武友小浪 外一名
被控訴人(選定当事者) 藤本彦平
主文
控訴人等の控訴は、いずれも棄却する。
控訴費用は控訴人等の負担とする。
原判決の当事者の表示中「被告宮陰和衛」とあるを「被告宮蔭和衛」、原判決主文第一項中「選定者に対し」とあるを「原告に対し」と各訂正する。
事実
控訴人等代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一、二と同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、次に付加訂正するほかは、原判決の事実欄に記載しあると同一であるから、これを引用する。
控訴人等代理人において、
一、被控訴人の主張事実中、原判決事実欄の「(原告の主張)」の一行目から四ないし五行目の「その後返掛金をなしてきた」までの事実(後記訂正を合む)、控訴人武友が昭和三一年九月二四日、控訴人宮蔭が昭和三一年一月二四日落礼したこと、及びそのときにおける未払返掛金は講の終了予定日である昭和三二年一〇月二四日まで、控訴人武友は一三回分合計三九万円、控訴人宮蔭は二一回分合計六三万円であつたことは認める。
二、控訴人両名は右の日時に落札したので、講元沢岻安正に借用証をいれて、同人から落札金を受取り、爾来翌月から昭和三二年五月まで控訴人武友は八回合計二四万円、控訴人宮蔭は一六回合計四八万円右講元に返掛金を支払つた。然るに、被控訴人等未落札者は講元沢岻安正の病気したこと等を理由に、昭和三一年末頃本講に関する一切の書類を同人から取上げ、爾後は講元を排除して、集まつた金員を分配した。
三、ところで、本講の実態は講元が集めた金員を講員に貸付けたものであるから、返掛金は講元が請求すべきで、被控訴人及び選定者等が直接請求する権利はない。従つて、控訴人両名は被控訴人に返掛金を支払う義務はない。
四、仮に本講の実態が一種の組合契約であるとすれば、その業務執行者である講元が業務執行をなす資格を喪失したときには、未既落札者全員二八名の協議によつて新に業務執行者を定め、その者によつて返掛金の請求をなすべきである。
と述べ、
被控訴代理人において、
一、本講は消費貸借の性質を有し、返掛金の取立については、未落札者だけが権利を有する。沢岻安正は単に講の世話人にすぎない。
二、仮に然らずとしても、本講の未落札者の全員は被控訴人及び選定者等、既落札者の全員は控訴人両名及び他一四名であるが、この未既落札者全員が集まつて協議した結果、爾後未落札者全員で世話人のしていた事務、即ち返掛金等の集金、講金の分配事務一切を担当すること、また引用にかかる原判決に記載のような理由で講の運営が困難となつたので、昭和三一年一一月二四日以降は競争入札を行なわず、集まつた講金を未落札者に平等に分配すること、及び最初の予定どおり昭和三二年一〇月二四日終講とすることをきめた。従つて、控訴人両名に対する返掛金の請求については、未落札者である被控訴人及び選定者等が請求権を有する。
三、仮に然らずとしても、被控訴人及び選定者等は民法四二三条により控訴人両名に対し返掛金を請求できる。何となれば、被控訴人及び選定者等は本講の未落札者であるから、講元に対し講金の請求権を有する。そして、講元は昭和三二年九月頃死亡したから、その相続人が講元の権利義務を承継し、被控訴人及び選定者等は右相続人に対して講金の請求権を有する。
一方(控訴人等主張のように講元だけが講員に対する返掛金の請求をすることができるとしても)講元の相続人は控訴人等に対し返掛金請求権を有する。ところで、右相続人は控訴人等に対してこの請求権を行使しないから、被控訴人及び選定者等は債権保全の必要上右相続人に属する権利を行使することができるからである。
四、原判決二枚目表三行目の「の頼母子講」から同四、五行目の「返掛金をなしてきた。」までを「、講金は開会の日未落札者による入札の方法によつて給付をうける金員を決定し、この金員の入札をした者に講金の給付をなし、給付をうけた講員は、その後返掛金をなす約束で頼母子講をはじめた」と訂正する。
と述べた。
証拠<省略>
なお、原判決の事実欄に「被告宮陰」とあるのをすべて「被告宮蔭」と訂正し、原判決添付の別紙選定者目録を本判決添付の別紙選定者目録<省略>のとおり訂正する。
理由
一、控訴人両名、被控訴人、選定者等及びその他の者の合計二八名が、昭和三〇年七月から二四日会という名称で、口数二八毎月二四日開会一回の掛金三万円、講金は開会の日未落札による入札の方法によつて給付をうける金員を決定し、この金員の入札をした者に講金の給付をなし、給付うけた講員はその後返掛金をなす約束で頼母子講をはじめたことは当事者間に争がない。
二、そこで、右頼母子講における被控訴人及び選定者等の権利について考える。
原審証人与儀貞子の証言により真正に成立したと認められる甲第一号証の二、原審の証人仲栄真盛広、与儀貞子(一部)の各証言、当審(一部)及び原審の被控訴人、控訴人武友小浪各本人尋問の結果を綜合すれば、本講は沢岻安正が単独で発起人となつてはじめ、同人は第一回の講会において世話人に選出され、講会の開催、掛金の徴集、諸金の貸付、借用証書の徴収、保管等一切についての責任をもつていたが、昭和三二年九月頃同人の死亡(この事実は控訴人等の明らかに争わないところであるから、自白したものとみなす。)後は、業務執行者を特別に定めることのなかつたこと、講員の中には当時特殊風俗営業を営む者が多く、売春禁止法の実施による収入減を見越して落札希望者が多く、又既落札者の中には返掛金を怠る者も出て、円滑な講の運営ができなくなり、未落札者の全員一致によつて昭和三一年一一月二四日以降は入札を行なわず、未落札者に平等に給付する方法をとつたことが認められる。この認定に反する原審証人与儀貞子の証言及び当審の被控訴本人尋問の結果の各一部は措信しない。そして、前記甲第一号証の二、原審の被控訴本人尋問の結果によれば、被控訴人及び選定者等一二名が未落札者の全員であることが認められる。ところで、頼母子講はその性質流動性を有し、その設立当初は民法上の組合たる性質濃厚であるが、講の会合がすすむにつれて、講金の既落札者と未落札者との間における消費貸借の性質が増加し、組合性は後退し、民法の組合の規定もそのままでは必ずしも適用がない。このことは講の解散についてもあてはまり、本講の解散について既落札者の保護さるべき点は返掛金の分割弁済の利益を喪失させないことだけであるところ、控訴人両名の返掛金の分割弁済の最終期はいずれも昭和三二年一〇月二四日であることは成立に争ない甲第二号証の一、二によつて認められるから、本講の解散は、未落札者のみの全員一致によつてすることができると解するのが相当である。
そして、前記認定事実によれば、円滑な講の運営ができなくなつたため、昭和三一年一一月二四日未落札者全員一致によつて入札をやめ、爾後集まつた金員を未落札者に平等に給付する方法をとつたのであるから、本講はこの時点をもつて解散し、清算手続に入つたものというべきである。ところで、その後も清算人の選任されなかつたことは前認定のとおりであるから、この場合には返掛金の取立等清算事務は未落札者が共同して行なうことができ、既落札者に対する返掛金の請求権は未落札者に帰属すると解すべきである。
三、控訴人武友は昭和三一年九月二四日、控訴人宮蔭は同年一月二四日落札し、そのときにおける未払返掛金は控訴人武友は合計三九万円、控訴人宮蔭は合計六三万円であつたことは当事者間に争がない。そして、前記甲第二号証の一、二によれば、控訴人武友は控訴人宮蔭の右六三万円につき、控訴人宮蔭は控訴人武友の右三九万円につき、それぞれ主債務者の落札の日に連帯保証したことが認められる。そして、落札の翌月以降、控訴人武友は昭和三一年一二月末まで毎月三万円及び昭和三二年一月分三万円の内金一五、〇〇〇円、控訴人宮蔭は昭和三二年一月まで毎月三万円返掛金を支払つたことは、被控訴人の主張するところであるから、その残額は控訴人武友が二八五、〇〇〇円、控訴人宮蔭が二七万円である。控訴人等は右のほか返掛金を控訴人武友は合計一三五、〇〇〇円、控訴人宮蔭は合計一二万円支払つたと主張するが、この主張にそう原審証人小沢留子の証言、原審の控訴人宮蔭和衛、原審及び当審の控訴人武友小浪各本人尋問の結果は、前記甲第一号証の二、原審証人仲栄真盛広、与儀貞子の各証言、原審及び当審の被控訴本人尋問の結果に照して措信できず、その他にはこの抗弁事実を認めるに足る証拠はない。そうすれば、控訴人等は連帯して被控訴人及び選定者等に対して、未払返掛金五五五、〇〇〇円を支払うべき義務がある。
四、よつて、被控訴人が右金員のうち五五万円、及びこれに対する弁済期後である昭和三三年四月二四日以降完済にいたるまで、民法所定年五分の遅延損害金の連帯支払を求める本訴請求は、正当として認容すべきであつて、これと結論を同一にする原判決は相当で、本件控訴は理由がないから、棄却すべきである。なお、原判決の当事者の表示には、主文第三項前段に記載のとおり明白な誤記あり、また原判決主文第一項の「選定者に対し」とあるのは「原告に対し」の明白な誤記(原告の提出陳述した訴状にも「原告に対して」と明記してある。理論的にも訴の当事者は原告であつて、選定者等ではなく、選定者等は民事訴訟法二〇一条二項により確定判決の効力をうけるにすぎない)であるから、職権で更正する。そこで、同法三八四条、九五条、八九条、九三条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 安部覚 山田鷹夫 鈴木重信)